所長コラム(136)「見たいコンテンツ」

皆様、こんにちは。運動研究所の宮島です。

前回は、なでしこジャパンが出場するFIFA 女子ワールドカップオーストラリア&ニュージーランド 2023の国内テレビ放送が大会直前まで決まらなかったことを書きました。今回もこの点について考えてみたいと思います。

まずベースとしては、やはり国際サッカー連盟(FIFA)が放映権料を大幅に引き上げたようです。私が放送権ビジネスに携わっていたのはもう10年以上前なので、あくまでも報道ベースではありますが、女子の大会の価値を男子並みに引き上げたいと考えているFIFAが高額の放映権料を提示したようです。FIFAとしてはある意味「当然」と考えている値上げだったのかもしれませんが、国内マーケットとの兼ね合いでコンテンツの取捨選択を行う放送局側としては折り合わない金額だったのでしょう。

もう一つは、日本国内における現在の女子サッカーの「価値」です。前回のコラムでなでしこジャパンの輝かしい戦績を書きましたが、残念ながらFIFA 女子ワールドカップ フランス 2019ではノックアウトステージの1回戦でオランダに負けてベスト16という結果でした。本来結果だけで競技を判断してはいけないというのが私の持論ですが、残念ながら世の中はそうなっているとは言い難く、特にメディアの世界では「日本チームが勝ったか、負けたか」というのは、番組や記事で取り上げるか否かの重要な判断基準の一つになっているようです。残念ながら「過去に強かった」というだけではなかなか取り上げられないのが実際のところで、もしそうであれば、東洋の魔女の東京オリンピック以降、男女で3回のオリンピック優勝をはじめ、幾度も世界選手権やオリンピックでメダルを獲得しているバレーボールなどはもっと定期的に各局各紙で取り上げられているはずです。(それでも他の競技よりは優遇されているとは思いますが)

また、国内で女子サッカーを「見たい」と思う人がどれだけいるのか、ということもポイントです。女子サッカーはかつては大きな集客をしていましたが、WEリーグの2022-23シーズンでの平均観客動員数は1401人で、目標としていた5000人には到達していません。この人数だとFIFAによって大きく吊り上げられた放映権料を妥当と考えることは、放送局としては難しいでしょう。特に商業放送の民放各局ではこの観客動員の競技では損失を計上してしまう可能性が払しょくできず、だからNHKが唯一対応できたのでしょう(恐らくFIFAも相当譲歩したのでしょう)。

競技を見たいと思うかどうかは「その競技を面白い」と感じるかどうか、がポイントです。どう感じたら「面白い」と思うのかは、これまたいくつかの要素があって、「好きな選手が出ているから」という理由で見る人もいますが、本来的には「競技性が面白いから」という点が重要です。(ちなみに昨今のスポーツ団体やチームのプロモーションはここをすっ飛ばしている例も少なくありませんが、この点については別の機会に書きたいと思います)

オリンピック憲章に書かれているオリンピックのモットーは「より速く(Citius)、より高く(Altius)、より強く(Fortius)」ですが、この3点で考えると、どうしても女性は男性には及ばない部分が否めません。もちろん同じ条件で競うことで、例えば陸上競技や水泳のようにゴール前で競り勝つなどの見せ場は出てきますが、サッカーの場合はゴール競技ですので、やはり男子との差が感じられてしまうのではないかと思います。バレーボールの場合は男子と女子とではネットの高さが違いますし、またボールのスピードが違うことから別の競技性が生まれていて、「ラリーが続くから」という理由で男子より女子を好むファンもいます。サッカーもフィールドの大きさを変えるなど、女子でも「速さ」「高さ」「強さ」がより感じられるようにするのも一案だと思っています。

一方で海外では女子サッカーは大きな観客動員数を得られるコンテンツになっている例もあるようです。検証をした訳ではありませんが、これは伝統的に女子サッカーチームが「おらが町のチーム」になっていることも要因の一つになっていると思います。歴史的に町のスポーツチームとして育ってきているチームが多いですから、日本の各チームの歴史とは違っています。私は一つの町の中でサッカーバスケットボールと他のスポーツとがマーケットを奪い合うことは無意味だと思っています(その意味ではアルビレックスなどは好例だと思います)。同じチームとしてサッカーバスケットボールも、そして女子も男子もその町の人は全部応援する…という状況が理想だと考えています。

次回は「多様性」について書きたいと思います。

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