所長コラム(134)「リーグの差」

皆様、こんにちは。運動研究所の宮島です。

前回は、Vリーグの優勝賞金(1500万円)がBリーグのそれ(5000万円)よりも少なく、Jリーグの優勝賞金(3億円)と比較すると1/20に止まっていることを書きました。今回もこの点について考えてみたいと思います。

まずは各リーグの財務諸表を見てみましょう。Jリーグの2023年の予算を見ると、経常収益が300億円弱(297億43百万円)です。ちなみに経常費用が305億円ですので、7.5億円程度の赤字ですね。次にB リーグを見てみると、こちらは「2021年度」(2021年7月~2022年6月)の決算書によると、経常収益が71億6500万円ほどのようです。事業収益だけでも60億円弱で、その大半は「ライセンス収益」(48億円超)とありますのでおそらく放送権料がメインだと思われます。(ライセンシング=グッズもあると思います)

ではVリーグはどうでしょうか。こちらは「令和3年度」(Bリーグと同期間)の決算書を見ると事業収益が7億6675万円。サッカー、バスケットボールとは桁が違ってしまっていますね。2期前の決算を見ると10億円以上ですので、おそらくDAZNの放映権料は3億円程度だったのでしょう。ちなみにJリーグの放送権料がメインと思われる「公衆送信権料収益」は192億円以上ですので、ここは非常に大きい差が生じています。ちなみに、Jリーグの正味財産期末残高(乱暴に言えば「預金額」のようなものです)は53.26億円Bリーグは16.32億円です。Vリーグの現金預金は9200万円余ですから、いわゆる体力的にVリーグは弱いとも考えられます。

では各リーグの観客動員数を見てみましょうか。すべての観客がチケット代を満額支払っているかはわかりませんが、観客動員数は収入の大きな柱でもあり、またスポンサー収入他にも少なからず影響を及ぼします。

2022年度のJ1リーグ入場者数は306試合で4,384,401人なので、1試合平均は14,328人です。ではバスケットボールはとみると、Bリーグのシーズンレポートによると、2021-2022シーズンのB1リーグ平均入場者は1,983人ですね。ではVリーグはというと、2021-2022シーズンの入場者はなんと1試合当たり783人。コロナ禍だったとはいえ、同じ室内競技のバスケットボールの4割ほどです。

それぞれの競技の国内トップリーグを公表されているデータだけで比較しても、これだけの違いがわかりました。これらの数字は実は相互に影響を及ぼしていて、観客動員が多いということは観たいと思う人が多いと推測できるので、プラットフォームとしても高額の放送権料を支払う価値があると考えますし、放送権を購入してまで放送・配信するプラットフォームがあるということは、人の目に触れる機会が増加しますので、スポンサー収入を増やす交渉に有利になります。また大きな資金が流入するということは、競技を行うために絶対に必要なこと以外に資金を配分することがしやすくなりますので、ファンリレーションを向上させたり、会場のホスピタリティを改善したりすることができて、再来場欲求を増加させることも期待できます。

かつてバレーボールは1964年の東京オリンピック以降、「東洋の魔女」と呼ばれた女子のみならず、1972年ミュンヘンオリンピックでの男子など、合計3個のオリンピック金メダルをはじめとして、国際大会での結果はサッカーをしのぐものでした。国内でのバレーボール人気も高く、現(公財)日本バレーボール協会川合俊一会長の頃は驚異的な観客動員数を誇っていました。各競技の国内リーグをどういう方向で運営するかは、各競技に属している人が決めるべきというのは私がいつも考えていることなので、それと現在の状況が一致しているのであれば、外部の人間がとやかく言うことではないと思います。一方、現状に不満があるのであれば何かを変えていく必要がありますが、それに耐えられるかどうか、というのが実は競技団体やリーグにとっては難しかったりします。「ワールドカップに出たい」という競技内で共有されていた目標に向かって変化を乗り越えたサッカー(Jリーグ)や、オリンピック出場権剥奪の可能性を回避するために最終的には団結したバスケットボール(Bリーグ)のようなことが今後各リーグで生じうるかどうかが、国内スポーツの「産業化」につながるかどうかの分水嶺だと思います。

次回は「スポーツの価値と対価」について書きたいと思います。

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