所長コラム(128)「国際大会を日本で開くということ」

皆様、こんにちは。運動研究所の宮島です。

前回は、日本では毎年いくつかの国際大会が開催されている例に挙げました。

国内の競技団体(National Federation=NFと略します)が招致を目指すという背景が一番大きいと思います。私が長く関わってきたバレーボールは毎年のように秋口を中心に国際大会が開催されて、そしてテレビのゴールデンタイムで日本戦が中継されていました。これはバレーボールが国内的にも人気があって非常に強い力を持っていた頃に、国際バレーボール連盟(FIVB)と連携して構築したスキームです。これは競技の人気向上やマーケティング的に非常に強力な「武器」で、バレーボール以外の多くのNFにとってはうらやましい構図であったと思います。(ただし、競技人口の増加につながるかというと、必ずしもそうではないと考えていますが、これは別の機会にしたいと思います)

各NFの関係者としては、バレーボールと同等の規模は難しいにしても、何年かに一度世界選手権を招致したり、あるいは世界選手権よりはランクが下がるにしてもそれなりの国際大会を例年招致したりすることで定期的に世の中にノイズを出したいと考えるのは無理もないことだと思います。特に国際大会を招致する場合初めからテレビ局と連携をしていることも少なくありませんので、国際大会を招致することが直接的にテレビで放映される、すなわち世の中の人の目に触れる機会が増加するということは間違ってはいないと思います。残念ながらバレーボールのこのスキームは東京2020大会を機に見直されてしまいました。日本バレーボール協会はこうなる前にうまく交渉して「延命」できなかったのかと個人的には思っています。

それから、やはり国際的に日本は経済的にも承知するパワーが強い国であることは否定できません。ただし、NF単体で招致するための権利金を完全に負担できる競技はそう多くないのが実情で、多くの場合は放送局などのメディア企業継続的にその競技を応援してくれているスポンサー企業の確約があってから招致に踏み込んでいるのがほとんどでしょう。できることならば単独でリスクまで負担できるほどの強い財務基盤を構築できていることが理想なのでしょうが、それはまだ遠いと言わざるを得ないです。

さらに、日本での競技運営能力は国際的に高く評価されています。きっちりと仕事をこなす国民性もありますが、適切なレベルでの運営を行う上に、国際競技連盟(NFに対してInternational Federation=IFと略します)からの要望に対しても、他国だと「No!」「Impossible!」で終わるところを、何とか実現しようとしますので、IFとしても日本で開催することは「安心」と考えられているのは事実です。

一方で、IFにとって、日本で開催することのほぼ唯一ともいえる障壁は時差です。前述の通り、日本で国際大会を開催する場合はNFとは別の企業の関与があることがほとんどですので、それらの企業の要望が寄せられます。それによって、各参加国を中心とした海外の視聴者にとっては「見にくい」時間帯に試合が開催されてしまうことが多くなります。ヨーロッパで人気の競技もアメリカ大陸で人気の競技もどうしても中途半端な時間にならざるを得ないことが多くなります。ただ、昨年のFIFAワールドカップカタール2022の日本国内放送権がインターネット配信企業によって購入されたように、ネット配信の普及で今後は障壁としては小さいものになるでしょう。

さてもう一度国内に目を向けますと、日本のメディアはどうしても視聴率やインターネットの閲覧数などを気にせざるを得ないので、論調も「日本頑張れ」になってしまいがちです。中継や結果報道は日本やその対戦相手が中心となりがちですし、日本が敗退してしまうと途端に中継時間が深夜に移されたりする事は頻発しています。国民の興味が現実としてそちらに向くのは否定できませんが、そこには「世界最高峰の戦い」が繰り広げられているのですから、ぜひそちらにも興味を持っていただきたいですし、見る機会があればぜひ観戦していただきたいと思います。

さて、次回は「競技を見ることで面白さがわかるのか」という点について書きたいと思います。

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