所長コラム(130)「スポーツの面白さは“見ればわかる”?」

皆様、こんにちは。運動研究所の宮島です。

前回は、Jリーグが30周年記念事業として、9万名の方を無償招待するキャンペーンをしていることを紹介しました。今回はそれを行うことの意味について考えてみたいと思います。

まずJリーグの「データサイト」によると、2022年シーズンのJリーグの総動員数は4,384,401人、1試合当たりの平均動員数は14,328人でした。ちなみに開幕して数節しか消化していませんが、執筆時点の2023年シーズンの平均は16,536人です。試合数が違うので1試合平均で比較しますが、1993年シーズンは17,976人で、この年はいわゆる「Jリーグフィーバー」が起こった年でした。その後年によっての増減は当然ありつつも、徐々に平均動員数は増加して2000年代に入ってからは18,000人から19,000人程度で推移して、ついに2019年シーズンでは20,751人と20,000人を突破しました。しかし、2020年に始まった新型コロナウィルス感染症の影響もあったと思われますが、2020年シーズンは5,796人、2021年シーズンは14,328人と大きく減少しました。それを考えると昨シーズンに開幕当初に近いところまで動員数が戻ってきているとはいえ、もっと高いレベルでの動員をスタンダードにしたいと考えていることでしょう。また新型コロナウィルス症候群も落ち着きを見せて、観客入場の制限も解除され、WBCなどでも声出し応援が解禁されたシーンを目にすることも多くなって、これまで以上の人が、人が集まるスタジアムなどへ赴くことに抱く抵抗感は下がってきているものと思います。ちょうど30周年という節目であったことも、こういったキャンペーンを行う理由としては最適だったとも思います。

一方で、こういうキャンペーンを行えるのは、比較的古くからリーグを維持し、実績の積み重ねもあり、経済的にその競技全体として成功しているサッカーだからこそ、とも言えると思います。同じ意味では無償動員キャンペーンがより意味を持つのは野球でしょうか。もちろんその他の競技が無償動員キャンペーンを行ったとしても全く無意味だとは申し上げませんが、「見てもらえば、潜在顧客になる可能性」が高いのはこういった競技だと、私は経験的に思います。

私も電通時代に多くの競技関係者から「見てもらえば、良さがわかってもらえるのになぁ」と言われました。ただ「見てもらえばわかる」のであれば、毎年ゴールデンタイムで中継されていたバレーボールは、もっと盛り上がっていてもいいのではないでしょうか。

スポーツ観戦の楽しさを演出するものには、マスコットチアリーダースタジアムグルメサポーターの応援風景などいろいろとありますが、やはり競技そのもの、試合そのものが中心であり、根底であることは揺らいではいけません。そういう意味で、サッカーと野球は「観戦の先輩」が多くいて、高いレベルから初心者レベルまでの観戦するための情報が世の中にあふれていることがポイントの一つだと思います。だから「見てもらえば」という戦略に意味が出るのです。

特に競技団体の方々は、そもそもその競技が好きで(愛していて)虜になっているような人ですから、そもそも競技の魅力が体に染みついているような人です。しかし、これから取り込みたいという人たちはそのような魅力が全く理解できていない人たちですから、そういう人たちを一度無償観戦させたとしても、競技そのものを楽しむことが難しい場合が少なくなく、結局周辺情報(スタジアムグルメがおいしかったかどうか、チアリーダーのダンスがかわいかったかどうか、など)で再び見に行くかどうかが決まってしまいますし、そうするとライバルとなるのがスポーツ界だけではなく、この世にあるあらゆるエンターテインメントになりますから、なかなか難しいと言わざるを得ません。もちろん競技によっては会場内で解説のFM放送を流したり、場内のビジョンで説明やリプレイを見せたりといった努力をしているところもありますが、このような地道な努力をすることによって、初見の観客候補を少しでも常連客に変えていくことに近づくものと思います。

当法人でも少しでも競技の面白さを伝えられるように、まだまだ数は少ないですが、コンテンツを作成してご紹介しています。ぜひ一度ご覧ください。

次回は「繰り返されるハラスメント」について書きたいと思います。

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