所長コラム(126)「東京2020大会での“収賄”と“談合”(その2)」

皆様、こんにちは。運動研究所の宮島です。

前回は、東京2020大会での「収賄」事件について書きましたが、今回は「談合」事件について書きたいと思います。

先月8日に組織委員会元大会運営局次長他、計4名が逮捕されました。各競技会場のテストイベントの計画立案業務の受注業者を調整した上で、その後のテストイベント運営業務、そして本大会の運営業務を随意契約とした結果、各社の受注金額を高止まりさせたという独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いだそうです。

前回の「収賄」事件と同様にこの問題は今後司法の場で明らかになると思いますが、なぜこのような事象が発生したのかについては、非常に複雑な問題が絡んでいると考えます。以下は全て私の想像で書いております。(私は「事件」が起こっていた時期は電通からも組織委員会からも離れていたので、実際に何が起こっていたかを知る立場にはおりませんでした)

一つは報道もされていますが、組織委員会が都庁をはじめとして各省庁、そして民間のパートナー企業からの出向者が多くを占めていたことで、これらの方々の多くはスポーツ以外も含めてイベント運営の経験が乏しい人も少なくありませんでした。本来は組織委員会という組織の建付け上、組織委員会で運営が全て行えれば理想的だとは思いますが、一部の報道でも見られる通り、組織委員会の運営能力には国際スポーツ団体(IF)からも疑問視されていたようですから、何とか各会場での運営を成立させるために、特に日本国内での開催実績に乏しい競技について外部のノウハウを持つ業者の力を使いたいと思うのは自然なように感じます。実際私も組織委員会に着任した際に、スポーツイベントを運営した経験者が少ないことに驚きましたし、そのような担当者をどうサポートして運営の水準を保つかという点に頭を悩ませました。

次に業者側の考えとしては、受託して失敗は絶対にしたくないと考えるでしょう。そうすると、自社で実績がある競技や会場のみを受注して、それ以外の競技への応札は避けたいと思うのが普通かもしれません。そうすると前述の「各会場で業者のサポートを受けたい」という組織委員会側のニーズが満たされません。報道では「電通への丸投げ体質」などとも記載されますが、如何に巨大な電通であっても、これだけのスポーツイベントを一社で丸抱えするほどの人的リソースを持ち合わせてはいません。そこで行われたのは、スポーツイベント運営の実績がある業者に、マイナー競技の運営受託を依頼したのではないかと思います。報道では当初は随意契約を検討しながら結局競争入札になったということでしたから、恐らく随意契約を想定していた時点から、そのような「依頼」をしていたのではないでしょうか。その後競合入札が実施されたわけですが、もし入札不調の会場があった場合に、何とかしてどこかの業者に応札させるために幾度か入札を繰り返したとした場合、それによって運営費が報道されている約400億円より安かったのかは疑問です。

特に、組織委員会内で全体を統括していたのは開催都市である都庁からの出向者です。また、財務関係を取り仕切っていたのは各省庁からの出向者でした。これらの方々は都費や国費が投入される東京2020大会の経費の使い方については非常に厳しくチェックをしていました。正直、予てから知り合いだった業者の担当者からは「財務セクションのチェックが厳しい」という話は聞いていました。東京2020大会は世界選手権を一度に東京で開催するようなものですので、通常単発で開催する国際大会のディレクターやスタッフが取り合いになったり、運営に必要な設備も枯渇する見込みで単価が高騰したりすることは想定されていましたが、一方で財務セクションはインターネットで調査した一般的な価格(プロ仕様とは違うもの)と比較して見積が高いという交渉をしていたと耳にしたこともあります。例えば各業者が抱えている現場のディレクターはノウハウと経験の塊で、運営と演出とテレビ中継との間を取り持って現場を調整できる人間は非常に限られますので、当然普通のアルバイトの人件費とは比べ物にならないくらい日当は高いです。ですので、果たして今回各社に支払われた額が「高止まっていたのか」はもはや神のみぞ知る領域ではないかと思います。

その他にも思い起こせばいろいろな要因?が考えられるのですが、これらは全て最初の制度設計、組織設計の時にしっかりとした「この大会を開催する意義や意味」についての議論が完全ではなかったことがこういう状況に帰着してしまったものと思います。

もしこの「談合」に関与した人が私腹を肥やしていたり、受注金額を高止まりさせようと画策したりしていたら絶対に許されるべきではない問題ですが、私はこの方々がそのような動機で「受注調整」を行ったとは思いません。報道では電通社内で「入札を有名無実化する」などの資料が配布されたとされていますが、電通社内では「なぜ今までオリンピックマーケティングを電通一社で扱ってきたのに、東京2020は他社を入れなければならないのだ?」と、スポーツ事業をよく知らない電通社員が言っていると耳にしたこともありますので、それらの社員の“ガス抜き”の資料だったのではないか?と想像していますが、もし本当に電通としての利益最大化のために「談合」を画策したのであれば由々しきことです。ですので、個人的には「受注業者をリストにすること」が本当に「不当な取引制限」と見なされるのか、その裏にまだ私たちが知らないなにかがあるのか、結果として「談合」をしてしまったとしても、本当に電通として「談合をしてやろう」という意図があったのか、などは興味深く見ていきたいと思います。

さて、次回は国際大会の意味について書きたいと思います。

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