所長コラム(125)「東京2020大会での”収賄”と“談合”(その1)」

皆様、こんにちは。運動研究所の宮島です。

こちらのコラムでも書きましたが、先月はNFLのスーパーボウルが開催されました。最後のワンプレーで勝敗が決まるという、ハラハラドキドキの好試合でした。入場券も非常に高価で取引されていたようですが、全米が注目するビッグイベントであることを再度感じました。

さて、今回は当初の予定を変更して、「東京2020大会での“収賄”と“談合”(その1)」として、収賄事件について書きたいと思います。プロフィールにも記載しておりますが、私は(株)電通でスポーツ関連業務に携わっておりましたので、たった一度ではありましたが当時の担当役員と平社員という関係で「元専務」と話をしたことがあります。その時は「かなり眼光鋭い方だなぁ」という印象で、「この人があの有名な…」と感じたことを思い出します。その後電通の顧問を退任されてからご自身の会社を立ち上げられ、コンサルタントとして活動されていたようですが、今回の事件についてご本人は恐らく「自分の会社の通常業務を行っていたら、それが収賄事件になっていた」というのが本音なのではないかと想像しています。(あくまで私の想像です)

もちろん「公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」の理事は(ちなみに職員も)みなし公務員であることは本人が把握しているか否かを問わず事実です。従って、「みなし公務員」であった「元専務」が「職務に関連して金品を受領した」のであれば問題があることになります。(私も組織委員会にいたときは、利害関係にある外部の方と食事に行くなどは慎重になるよう指導されました。)今回「元専務」が行ったことが犯罪に該当するかどうかは、今後司法の場で明らかにされていくものと思います。

一方これらを踏まえた上で注意したいのは「この収賄事件のおかげで国費や都費が余計に必要となった」という指摘についてです。一般的に、競技団体などにスポンサーを見つけてきたエージェント(広告代理店等)にはフィー(手数料)として協賛料の一部が支払われます。今回の金銭のやり取りは報道で見る限りはこの手数料の中の話であるように感じられます。従って、組織委員会の収入となる金額が不当に減じられていることはなく、必要以上に国費や都費が使われたという指摘は若干馴染まないように思っています。

もう一つ、この話には必ずと言っていいほど「電通への丸投げ」という意見が聞かれますが、そもそもスポーツマーケティング事業を恒常的に行っている会社はさほど多くないのが現状です。また、競技団体や組織委員会が収支のバランスをある程度見通しながら事業を進めるためには、スポンサー収入を一定程度保証してもらうことも少なくなく、その場合にはある程度収入の予測をする経験があって、かつそれなりの規模の会社しか対応できません。もしそのような形を採用しない場合、スポンサーセールスがある程度見えてくるまでどのような事業(会場運営や事前PR、人や物の手配など)を行ってよいのかわからず、手配がどんどん後手に回ります。早めに発注するのと、間際で発注するのでは前者の方が価格的に抑えられることが多いのは想像に難くありません。またオリンピックの場合はIOCから運営水準などが厳しく定められていますので、組織委員会が「まだ収入が見えていないから…」と勝手に変えることはできません。そうすると「どこかの会社」にある程度の保証を受けた方が全体として運営がうまく行くという事情があることも否定できません。

特に電通や博報堂というメガエージェンシーはそれぞれ数千社程度のナショナルクライアントと呼ばれる広告主を取引先として抱えていますので、これらの会社に話をするだけで、日本のほとんどの広告主(=ポテンシャルスポンサー)に提案ができることになります。これを組織委員会単独でできるようにすると、マーケティングセクションだけで1000人単位で必要になるでしょう。さらに言えばオリンピックのマーケティングは一般のスポーツマーケティングとも異なり、極めて特殊なので、迂闊な販売をしてしまうと後で問題になる可能性も多く、どこの会社でも簡単に取り扱える案件ではないことも事実です。

いずれにしても、全てを短絡的に批評することはせず、悪いところは悪い、全うであるところは問題がないと、切り分けて見ることが必要だと思います。

次回は「談合」について書きたいと思います。

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