所長コラム(112)「アスリートファースト」

皆様、こんにちは。運動研究所の宮島です。

さて前回は「暑熱対策で東京オリンピックですら開催地や開催時間を変更した中、高校生が夏の時期に屋外でスポーツを行うことを回避することができていない」現状について書きました。今回もこの点について書きたいと思います。

私が考える一番大きな理由の一つが「伝統」です。もっと端的に申し上げると、関係者による「こういうものだから」という考え方です。インターハイは読売新聞社、夏の甲子園大会には朝日新聞社が共催に入っています。新聞社が共催に入ることは、運営の継続性の担保や告知の強化などいい面もたくさんありますが、ここまで歴史を重ねてしまうと企業側も伝統を崩していくことが難しくなります。

野球だけですが、NHKが1分も逃さずに中継していることもあります。以前NHKの方に伺ったのですが、NHK総合で国内のスポーツを放送するのは日本選手権に限られるのだそうですが、高校野球は唯一の例外だそうです。そのような「特別扱い」を受けている訳ですが、時期や時間帯、開催地などを変更することでその特権を失われることを主張できる担当者はなかなかいないでしょう。

また選手側としても「甲子園球場で野球をしたい」という思いが強く、他球場では「なんか違う」と考える選手がほとんどだそうです。同じ形で継続することは大会の資産(宝)とも言えますので、それを手放すことは簡単ではありません。なぜ変更する必要があるのか、変更することに伴うメリットとデメリットは何か、本当に今やらなければならないのか、などを議論していくと「今じゃなくてもいいのではないか」となっていきます。もっと言えば「自分が責任者(あるいは担当者)の時に判断したくない」という気持ちもあるでしょう。

もちろんその他にも理由はあります。まずは「夏休みだから」ということが挙げられます。日本中の学校が1か月半ほどの長期休暇を取るこの季節は様々な調整をせずに、全国から選手や関係者が集合する規模の大きな全国大会をやりやすいことは紛れもない事実です。

また、前年度3月に3年生が卒業し、4月に新1年生が入学することで「新チーム」が構成されることも一つの要因です。4月に構成された新チームがある程度練習を行った後に都道府県予選をほぼ週末だけで行うと、全国大会は早くても夏休みになるようです。それを遅らせると、今度は3年生の受験勉強に影響があるということのようです。

しかし、バレーボールでは、当初「春の高校バレー」を3月下旬に開催しており、その頃は卒業式が終了していたこともあって1、2年生のみのチームで戦っていましたが、関係者の強い思いから3年生がギリギリ参加できる(と判断して)1月上旬の開催に変更したという実績もあります。「甲子園球場でやりたい!」という思いも合理的な理由とともに数年前(例えば3年前)から告知を行うことでショックは和らげられるのではないかと思います。

東京2020大会前後から「アスリートファースト」という言葉をよく耳にするようになってきました。これは選手を甘やかすということと同義ではないと理解していますが、スポーツライターの臼北信行さんがこちらで書かれているように「最悪の事態が起こったから変える(起こるまでは変わらない)」という、それこそ最悪の事態にだけはならないで欲しいと心から願います。

次回は「スポーツを見よう!」というテーマで書きたいと思います。

コメントは利用できません。