所長コラム(106)「見たいものの価値」

皆様、こんにちは。運動研究所の宮島です。

さて前回はオリンピックの放送権料を基に、米国放送局が支払う放送権料がいかに巨額であるかを書きました。米国内では他にも3大とも4大スポーツとも言われるメジャースポーツでも大きな放送権料が発生しています。なぜ米国の放送局はこのような巨額の放送権料を支払えるのでしょうか。

日本の放送局はNHKと民間放送局とに分かれます。NHKは受信料収入がほぼ全て(約97%)ですが、民間放送局は総収入概ね6~7割程度を占める放送広告収入が主な収入です。日本国内の放送において特徴的なのは「視聴の度にお金を支払う形式ではない」ということです。(最近広まっているネット配信やサブスクリプション等については後述します)

我が国ではこのような見た目の「無料放送」が長く続いていますし、テレビ局の努力の結果、国民の多くがこれらのコンテンツを楽しんで視聴してきましたので「この番組を見たいからお金を支払う(=ペイ・パー・ビュー:PPV)」という考え方があまり根付いていませんでした。

一方米国でのテレビ視聴においてはもちろんアンテナを設置して無料で放送を視聴するスタイルも可能ですが、より視聴したいコンテンツを放送しているケーブルテレビを契約することが一般的でした。また、米国では強いコンテンツが昔からPPVの形で別途視聴料を徴収する形式が定着しています。古い情報で恐縮ですが、2015年に行われてボクシングの名勝負と言われたマニー・パッキャオとフロイド・メイウェザー・ジュニアの試合では、100ドルのPPVの契約が300万件程度となるだろう、と予想している記事がありました。つまり、たった一つの試合で興行収入(記事によると7000万ドル!)の他に数百億円の放送収入が発生することになります。

翻って日本の状況を鑑みると、先日行われたFIFAワールドカップ2022(カタール大会)のアウェイ戦が全て有料配信だった際に「なぜ地上波での放送がないんだ!」という声が多く聞かれました。こちらについては「ユニバーサル・アクセス」という考え方もあるのですが、日本ではまだコンテンツに対して対価を支払うという概念が定着しているとは言い難い表れだと思います。

近年では有料配信やサブスクリプションも始まっていますが、残念ながら月額料金定額制が主流であるように感じます。このやり方でもコンテンツに対して対価を支払う第一歩であることは間違いないのですが、コンテンツ側の考え方では全体のパイが限られた中での取り合いとなりますし、配信会社が満足する視聴を獲得できなかったコンテンツが見切られた後の這い上がりが非常に困難となるでしょう。今まで以上にコンテンツサイドのファン獲得努力がカギとなると思っています。

次回は「チーム選択の自由」について書きたいと思います。

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